☆50話 人をクビにし過ぎて学んだ、人を活かせない未熟さ

私がオーストラリアの農家でキャベツを刈る仕事をしていたときの話

 

最初にキャベツを刈るために入った会社は田舎町にある、オーストラリア内で複数個所に展開している大企業だった。

 

6、7人ほどのチームでトラクターを使い、キャベツを何パレット刈るというオーダーをこなし、みんなで儲けたお金を分け合う歩合制の仕事だ。

個人ではないし、お金がかかっている分、毎日のように喧嘩が起こっていた。

 

そして喧嘩が起こる度、喧嘩した仕事ができない方がクビになる。

当時のキャベツのチームのリーダーが喧嘩っ早く、仕事ができない奴を辞めさせて効率よくお金を稼げるメンバーが集まるまでクビにさせていた。

 

「なんだこいつは、最低のリーダーだな」と心の中で思っていたが、普通に接していた。

 

私は気配りと体力と仕事の速さが認められ、揉め事もなくクビにはならなかった。

文句も言わずに黙って仕事をしていて、ボスにも気にいられていた。

 

喧嘩にも関与せずに黙々と仕事をした。

 

その中で一回だけ私が怒ったことがある。

仕事中、私のとなりのポジションにはクレモンというフランス人の男の子がいた。

クレモンは仕事ができないわけではないが、刈るのがそこまで速くなく、トラクターの速さについていけず、私のキャベツ入れボックスにキャベツを変な形で投げ入れていた。

 

私はそれを直すのにも時間がかかるし、投げ入れればキャベツが傷つきお金にならなくなる。

 

「お前のせいで余計な仕事が増える、お前はチームにいらない。」

私はカーッとなってクレモンに言ってしまった。

 

チームのみんなは茫然と見ていた。ボスも離れて見ていた。

 

 

次の日、クレモンは仕事に来なかった。

 

メンバーに聞いたら、「彼はクビになったらしい」とだけ言っていた。

なんだか悪いことをしてしまった。と胸が痛くなった。

 

 それからキャベツの刈り取りシーズンも終わり、次のシーズンが始まる別の地へ転勤になった

 

新たな地では、ボスから信頼も厚く自分はキャベツのチームのリーダーになった。

メンバーをまとめ、休憩時間を決めたり、みんなのポジションを決めたりナイフを研いだりする。

 

仕事は楽しかった。でも、やはりお金に目がくらんでいた。

固定のいいチームがあっても、それぞれに事情があり、メンバーの入れ替わりがある。

新しく来ても、あまりに使えないと、私はボスに

 

「こいつは使えなさすぎる。仕事の終わりも遅くなるしボスにも影響が出る」

などと、うまいことを言っていた。

私に信頼を寄せていたボスも、「お前が言うなら。」という感じで何人も仲間を辞めさせていた。

 

使える奴が来れば、仕事が速い人だけで効率よく稼げる。それしか頭になかった。

 

私は、前に一緒に仕事をしていた最低なリーダーと同じようになっていた。

会社の為に黙って働く犬ではなく、傲慢の塊でしかなかった。

 

 

そんなある日、新メンバーとして、クレモンがキャベツチームに入って来た。

私は目を疑った。感動の再開と言うよりは、「なんでクビになったはずのこいつが来たんだ」という感じだった。

 

ボスに聞いてみると、「俺も分からない。事務の手違いか、それか経験者として間違って採用されたのかもしれない。まぁ今日くらい一緒に仕事してくれ」と答えた。

 

久々に一緒に仕事をしてみると、相変わらず仕事はできない。

 

休憩時間に仕事を見に来たボスに私は言った。

「クレモンは相変わらず使えない。新しくもっといい人材を期待しているよ。」

 

ボスは「だろうな」と言った感じで静かに去って行った。

 

その時、クレモンがメンバーと何か話しているのがちらっと聞こえた。

私のことを何か話している。何か悪口でも言っているのか。と思って聞き耳を立てた。

 

「彼とは以前別の町で仕事を一緒にしていたんだ、誰にもまねできない速さで仕事をする彼は、俺の憧れなんだ。」

こいつ何を言っているんだ。。。

 

私は泣きそうになった。

 

自分をこんなに評価してくれる人間を何も知らずに無職に変えて、俺は何をやっていたんだろう。

 

今いるメンバーで全力を出せるためにメンバーの力を引き出すのがリーダーの力じゃないのか。自分は人を活かせない未熟さから逃げているだけだ。

大事なことに気づかせてもらった。

 

私は、すぐさま去りゆくボスの元へ向かった。

「今いるメンバーは変えなくていい!クレモンはできるやつだ。」それだけ伝え、クレモンのクビはなくなった。

クレモンは私と会社で問題を起こし、クビになるまで一緒に働き、日本に居る今でも連絡を取り合う仲間になった。

 

噛み砕いて考えてみると、

人間の欲は考えることの邪魔をしてしまう。

それに気づくには気づかせてくれる人か、気づく努力が必要だ。