☆52話 人生最高の物々交換は何か?を思い出してほしい。

人生でもっとも泣いた日というのは、とてつもない衝撃を受けた日だろう。

それは普段なにげなく過ごす人生の中で起こる、電撃的な刺激になるので定期的に思い出すようにしてほしい。それが生きる意味を与える電気ショックになるだろう。

 

 

私がオーストラリアの語学学校で友達がだいぶ増えていた頃のある日、お昼の休憩時間にランチスペースで一人でご飯を食べているアジア風の女の子を見つけた。

 

その子がたまたま、自分と同じクラスにいる日本人の女の子に顔が似ていた。

 

私は仲良い友達に「あの子クラスの奴に顔似てるから並べてみようぜ!」

と話し、勇気を出してアジア風の女の子に話しかけた。友達にはクラスの顔が似ている日本人の女の子を呼んできてもらった。

 

話してみると、アジア風の女の子はPJという名前の台湾人で、まだオーストラリアに来て一週間ほどだという。おとなしい雰囲気の優しい感じの子だった。

 

すぐに日本人の顔が似た女の子も来て2人が並んだ。

「似てるじゃん、姉妹だよ!」と瓜二つの2人を見て、私は子供のようにはしゃぎ、周りにいたメンバーも楽しんでいた。

 

これは面白い!私は週末に友人とのBBQパーティーを開く予定だったので、「BBQで双子のように似ている子がいたらいじれる。」

というふざけ半分でPJを誘った。PJは「予定もないので行くわ」と二つ返事でOKをした。

 

週末のBBQで大活躍を果たし、いじると面白いPJは私とつるむグループの仲間になっていた。

 

そこから色んな遊びに誘うようになった。

 

だが、ある日からPJは急にノリが悪くなった。遊びに誘っても、「今日は図書館に行かないといけない。」などといい遊びに来なくなった。

 

私は、PJは勉強に目覚めたのか。みんなそれぞれの生き方があるから、まぁしゃあない。と言う感じに思っていた。

 

 

そんなこんなで日にちも経ち、私は語学学校を卒業の日を迎えた。

 

卒業の後日、友達が私のためにお別れパーティーを開いてくれた。

BBQ設備のついた公園で総勢で60人ほどの人が集まった。これは今までのお別れパーティーでは信じられないほどの人数だった。その中にはPJもいた。

 

私は、全員と一人ずつ会話をしながら普通にBBQを楽しんでいた。

 

そこで私は見てはいけないものを見てしまった・・・

 

 

私のためにみんなが寄せ書きを書いているところだ。

寄せ書きはサプライズでもらうのが定番だが、書いているところにたまたま遭遇してしまった。

パーティの幹事は、「見なかったことにしろ」と笑いながら言ってきた。

 

しかし、心理的にサプライズでもらった時の驚きは少なくなってしまう。

パーティーが始まって2時間ほどしてから、幹事が

「みんな聞いてくれ!」

と言い、全員の注目を集めて、私にみんなが書いてくれた寄せ書きを渡してくれた。

 

見て驚いた。色紙の表どころか裏にまでびっしりメッセージが書かれていた。しかも皆がそれぞれの母国語で書いているので全然読めない。

でも、ただただうれしかった。自分のためにこんなに大勢の人がメッセージをくれるなんて。

 

寄せ書き担当をしていたであろう女の子が「なんだ泣かないのかよー」と笑いながら言っていたが、

私は「泣けねーよ、渡される前に見ちゃったもん。なんかもらえる感じがしてたんだよ」と笑いながら答えた。

 

その時に、PJが「私からも渡したいものがある」 と言い手作りのアルバムを渡してきた。

 

私には想定外すぎて、もらったアルバムを見て驚いた。

表紙には私の似顔絵が描いてあった。それを受け取った時点で私は泣いて居た。

 

PJは追い打ちをかけるように私に言った。

「私はオーストラリアに来たことを後悔していた。台湾でいい会社に入ったけど、自分で広い世界が見たくて、勇気を出して会社辞めてまでオーストラリアに来たのに。。友達もできずに一人で学校でお昼ご飯を食べながら、ずっとこっちに来たことを後悔してた。でもあなたのおかげで後悔は全部なくなった。今こうして私がここでの生活を楽しめるようになったから。あの時のお昼の時間に話しかけてくれてありがとう。生きてて良かったよほんと」

 

そういえば俺はうつ病だった話は自分の仲間内にだけしていた。

この子はそれも覚えてたのか。と思った。

 

もらったアルバムを1ページずつめくった。

涙で目の前の景色が歪んだ状態で見たアルバムの1ページ1ページには、私がPJと遊んだ時の物語が絵と文字で書かれていた。

 

そこで、PJの親友の女の子が泣きながらアルバムをめくる私に言ってきた。

「PJは放課後に図書館に行ってこのアルバムを作ってたのよ。すごいわよね」

 

「あぁほんとにすげーわ。俺、、、生きてて良かったわ」

私は震える声で力を出しながらも、つぶやいた。

ただ友達に似ているという理由で、失礼なくらい適当に話しかけた子の人生をここまで変えていたことを知って、自分には生きる価値があるのか、と改めて実感した。

 

もう涙が溢れすぎて、バケツに溜まるんじゃないかというくらい泣いて居た。

見たら、PJも泣いていた。周りのみんなは笑っていた。

 

幹事は、「あなたが泣いて生まれた時、周りの人は笑ってた。あなたが死ぬときは、あなたが笑って、周りの人が泣くような人生をおくりなさい。」という名言でまとめてくれた。

 

みんなが引くくらい、しばらく涙が止まらなかった。

 

噛み砕いて考えてみると

しばらく感じることもなかった、自分の生きる価値を導き出してもらえた気がしたからだろう。

 

今までの人生の中でこれを超える物々交換は、無い。

私があげたもの:人生の決断を後悔させない新たな道と、孤独からの解放

PJがあげたもの:存在意義の証明と、人生で最も泣いた経験

 

人生の物々交換の中であなたの印象に残っているものはなんだろうか。

多くの人に意識しないで大事な経験を流れる時間と共に流してしまわずに、強く握ってから骨身に沁み込ませていく人生を送ってほしいと感じた。