82話 僕が黒服と呼ばれるようになった日

私は、新卒の時に、薬剤師として一部上場企業のドラッグチェーンに就職した。

 

そこで、得意の人懐っこさから、課長クラスの人1人と仲良くなった。

その人は新人研修で、同期と人事併せて140人の前で私が一発芸をさせられた時に、実際に見ていて私を気に入ってくれていたらしい。

 

私はその課長とある日、新人の研修で話す機会があった。

 

「われわれ課長クラスは新人薬剤師にどんな人がいるか、全然わからないから、僕だけ研修にこうやって忍び込ん見に来てるんだ、飲んだりする機会もなかなか無いしね。」 

 

と言っていたので、私は

「それなら、新人と課長クラスの人も混ぜた交流会開きましょうよ、暇そうな人いたらみんな呼んじゃっていいですよ。」

 

と軽い感じで言った。そんな飲み会があれば上司に顔を売るチャンスだと思った。

 

課長も、

「それは前代未聞だわ、面白そうだね」 と本気で話が進んでいた。

 

15人くらい課長が来ることになった、と課長からラインをもらい、「私は言った以上やるしかない。。」と思い同期みんなに声をかけた。

(130人同期がいて薬剤師はそのなかで40人ほどだ。)

 

40人みんなに一人ずつ声をかけた。特にかわいい子には、

「偉い人がいっぱい来るから、助けて欲しい」と頭を下げるように頼んだ。

 

飲み会当日、「増えちゃった」 という言葉と共に課長が20人近くきて、まさかの部長も1人来た。

全員スーツでの参加だ。

 

声をかけた同期も20人ほど来てくれて人数比もいい感じで集まった。

部屋は、居酒屋の6テーブルの座敷の一部屋を貸し切った。

 

飲み会が始まる前に、飲み放題のコースで、上司たちからは多めにお金をもらい、同期の払うお金を少なくした。

 

飲み会の初めに、私は、

「課長、部長のみなさんから、今後の活躍を見越しての寸志をいただきました。ありがとうございます。今日と言う日がいい未来につながりますように」 と挨拶をして飲み会を始めた。

 

各自6つのテーブルにランダムに振り分けられ座り、飲んでいた。

私も普通に参加して飲んでいたが、ふと思った。

 

「これ、みんな楽しんでるのだろうか?」

 

そう思い私は立ち上がり、すべての席が見える、部屋の入り口のドアの前に立って、周りを見渡した。

 

全体を見ると、面白いほど状況が見える。

この課長はものすごく楽しそうだが、この課長は楽しんでいない感じだな。とか

このテーブルは盛り上がり過ぎている。こいつは盛り上げるのが上手い。とか

 

全ての状況が飲み込めた。

 

私は、楽しめる人が多い平均を上げるために、メンバーの席移動を考えた。

それは一斉に移動ではなく、私の指示だけで移動してもらう、ということだ。

 

1つのテーブルに盛り上げるのが上手い人を1人は置くようにして、足りないところには、メンバーに時間ごとに動いてもらう。

盛り上げ役は同期だけじゃなくてもいい。課長の仲にも盛り上げるのが上手い人はいる。

 

後ろから同期に近づいて、「ごめん、1分後○○課長のテーブルに行って!君が行けば絶対盛り上がるから。」などといい。すべてのテーブルが盛り上がるように配慮した。

 

私は、「席を移動すれば、多くの上司と関われて今後の連絡のやり取りもスムーズになると思います」と何人かの課長に伝えていた。

 

そして、一人だけ来ていた部長のところには一番かわいいと言われる子と、ノリがいい女の子を配置した。

 

私は20分おきくらいに飲んでは立って、周りを少し見まわして、同期に席移動の指示を仰いでいた。

 

どこかのテーブルで、「実は今日誕生日なんだよ」という一人の課長の声が聞こえたので、

同期の仲良い一人を連れ出して、一緒にケーキを買いに行った。

 

途中でサプライズでケーキを渡し、とても盛り上がった。ケーキ代は上司の寸志で払った。

 

 

席移動のおかげか、ありえないほど盛り上がり、上司からは大満足の声を貰えた。

一人来てた部長は、「最高だった。また頼む」と私に言い帰っていった。

 

 

次の研修の時、多くの上司から感謝された。

私の活躍はたちまち上司の中の話題に出ていたらしい。

 

飲み会で知り合った課長の一人が、

「あの黒服すごいぞ。周りを見て人を動かしてる。」と私の活躍をずっと見ていたようで、みんなに話していたようだ。

 

 

黒のダークスーツで飲み会中、ほぼ立って周りを見て女の子を特に動かしていた私の活躍は見られていた。

壁に耳あり障子に目ありだ。必ず誰かが見ている。

 

私は次の新人ながらも次の店長候補に入っていた。

少し面倒だと思う立ち回りも、うまくこなせば自分の手柄になる。それを学んだ。

 

私は会社で問題を起こし懲戒処分を受けるが、黒服と言われ、抜きんでた存在になれたことは一生の武器になると思っている。