54話 脳を洗うと書いて洗脳。自分がどっぷりの洗脳から逃れた話。

洗脳は決して自力では解けない。別の世界を見せてくれた他人の考えに共感して行動できるものだけが洗脳から逃れられる。

 

ブリスベンシティの語学学校を卒業した私は、すぐにStanthorpeという田舎町の農家で働くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校時代の友人の女の子が、求人募集していたイチゴの農家を私に斡旋してくれた。

 

仕事も、給料は週に7,8万円ほど稼げて、ピークでは10万円を超えることもあるという歩合制。農家の従業員の幹部がシェアハウスを持っていて、そこに住ませてもらえるという、申し分なかった。

 

ブリスベンから3時間ほどかけて、知り合いに送ってもらい、田舎町のシェアハウスに着くと、オーナーのリーという韓国人の男の人がいた。

人当たりも良く優しい人だ。

 

「僕も一緒の農家で働いているよ。一緒に頑張ろう。今はそんなにイチゴがないけど、シーズンの時は毎週1000ドル(現在のレートで7.5万円弱)以上は稼げる。一緒に頑張ろう!」

 

そう言われやる気が出てきて、いざ仕事に行ってみると、イチゴがなさ過ぎて仕事は3時間ほどで終わった。稼いだ給料は2000円も行かないほどだった。

 

同じシェアハウスに日本人もいたので話を聞いてみると、

「ここの農家は全然稼げない。本当はもっと稼ぎたいけど、でも辞めるに辞めにくいんだよね。」

とみんな口をそろえて言っていた。

 

「安いけど生活できないほどではない。」自分に言い聞かせた。

 

家のオーナーのリーさんは同じシェアハウスに住み、仕事も一緒に行くアニキ分の存在だった。

「今日はどれくらい収穫できた?」「すごいじゃないか!いつか俺と競争しよう!」

「今日は美味しいカレーを作ったよ、みんな疲れただろうからいっぱい食べてくれ。」

気遣いができてとてもいい人だった。

 

私は、この人がいるならやっていける。そう思って仕事も頑張っていた。

 

だが、仕事はほとんど無いに等しい。イチゴがないので仕事自体もみんな休みになることが週に2,3回あるのが普通だった。あっても数時間で終わる。

 

一週間に稼げても2万円~3万円前後が精いっぱいだ。

これでは貯金もできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐイチゴがたくさんできて一杯稼げるシーズンが出る。」

リーさんは毎日のように口にしていた。みんなそれを信じて辞めないで頑張っていた。

 

 

そんなある日、ブリスベンの町で数日一緒に暮らした日本人の男の子から電話が来た。

「お久しぶりです。今Stanthorpeにいるのですが、どこにいますか?お話があります。」

私は同じ町にその友人がいたことに驚いた

「同じとこにいるよ。語ろう!」そう言いすぐに、夜に彼と話をし行くことになった。

 

夜の21時くらいだろう。町のスーパーの前で彼と会った。久しぶり!という挨拶を後に彼は要件を言った。

「今求人を募集しているカリフラワーの仕事があります。いますぐに決断してもらえたら紹介できます。仕事は3日後から始まります。給料は時給制で週に1200ドルは稼げるみたいです。」

 

私は、驚いた。

1200ドルとか稼げるものなの?イチゴの歩合制のエースがピークで1000円くらいって言ってるけど。。。

迷ったが断わることにした。

「ごめんよ、今イチゴの○○って農家で働いてて、もうすぐシーズンが来るみたいなんよ。家のオーナーもいい人だし。辞めにくいんだよね。」

 

友人は残念そうな顔をして言った。

「それ嘘ですよ。そこはシーズンが来ると言ってシーズンは来ないです。みんな安い賃金で働かされています。目を覚ましてください。もっと稼げる仕事があるんですよ!」

 

その時ふと思った。

確かにシーズンは来ると言って何週間も働いているが、給料が増える感じもないし、イチゴも全然増えている感じがない。俺は騙されているのか?

 

私は、リーさんを裏切るべきか、友人を切り捨てるか、迷った。

くしくもお金は正直だった。

 

給料が今より3倍以上にもなるなら。。。と言ってイチゴ農家をやめることにした。

シェアハウスのリーさんには、言いにくいので後日直接オーナーに連絡をした。

 

「仕事を辞める、今日限りで辞める」と。

 

シェアハウスの日本人たちも私が仕事を辞めるのを聞いて立て続けに辞めていった。

誰かが動けばみんな同じ方向に動く。ということを学んだ。

 

ある日、自分の荷物は全部外に出されていた。

必死に新しい家を探して、なんとか生活をしのげ、無事カリフラワーの収穫の仕事で本当に週1200ドル(9万円程)稼ぐことが出来た。

 

リーさんとはそれ以来あっていないが、人をだまして働かせてマージンを会社から貰っていたと知ったのは、仕事を辞めてからずっと後のことだった。

 

噛み砕いて考えてみると

私は完全に洗脳されていたようだ。

しかも、それは自分では全く気付くことが出来なかった。

 

客観的に見ればおかしいことでも当人では気づけないことがある。DVやダメ男にハマるのもその一例だろう。

 

洗脳から抜けるには、本を読むなり、誰かに話を聞いてもらうなり自分のいる環境外の意見が必要になる。そしてそれを受け入れるということだ。

 

洗脳と言うものはそもそも自分では気づくことが出来ない。

脳みそを洗うと書いて洗脳なのだから、古い考えが助けてくれないとの見方もできる。

 

あなたは今なにか、自分が不利益を被っているのに我慢していることがないだろうか?

もしかしたら、あなたも気づかない何かに洗脳されているかもしれない。