☆64話 集団ストライキでクビになって学んだこと。

自分がオーストラリアの農家でキャベツのリーダーをしていた時のことだ。

 

うちのチームは、オーストラリア人であるビアンカという管理役(スーパーバイザー)と、フランス、日本、イタリア人の計6人チームで構成され、キャベツを収穫して、稼ぎをみんなで山分けするというものだった。

 

ビアンカは女性同士で結婚したレズビアンで、見た目は160cmもなく小柄で細いが、普通の男よりも男勝りの性格で、オーストラリア人であるキャベツ部署のボスのブライアンからはあまり気に入られず衝突することも多いようだった。

 

ボスのブライアンは180cmほどあり太っている大柄で、女好きな大男だ。悪い人間ではないが、仕事をしっかりできるのが当たり前。と考え、ちょっとのミスも厳しくしてきた。私は転勤する前からの仲であり、ブライアンとも仲が良かった。

 

 

ビアンカは我々が出勤すると、いつも狂ったように喜んでいた。

「おめーら元気か!昨日は良い一日だったか!」

我々は、ただ出勤するだけで褒めてくれるビアンカの人柄がとても好きだった。

 

ただ会社に行くだけで毎日の仕事を楽しもうとしている彼女が格好良く見えた。

 

ボスとビアンカの違いは、褒めるか、褒めないか。

極端にいうとそれだけだった。

 

 

我々のチームはお金を稼ぎ過ぎているということで、賃金を減らされるという話題が会社内の会議にかけられていた。

運悪く、同じタイミングに、ボスと反りが合わないビアンカも辞めさせられるのではないか。という話もチームの中で出ていた。

 

我々は別に不正をしていた訳ではない。

チームの士気が上がって最高のチームワークとパフォーマンスを発揮でき、多い時は時給で6000~7000円くらいは稼ぐほどになっていた。

 

それから、会社の結論は、我々の賃金を2/3に下げるというものだった。

我々は、給料が下がってもそれでも一般的な賃金よりは高い。それでもその頃は目が曇っていて、みんな仕事を続けることが億劫になっていた。

 

我々の給料が下がった当日、ビアンカは仕事中、私に漏らした。

「こんな仕事やってられないよな、ボスと合わないから私仕事を変えようと思ってる。」

 

私はビアンカが辞めるなら、俺も追って辞めるよ。あんたがいないチームは面白くないだろ?」

 

ビアンカ「イェーーーイ!お前は俺の最高の仲間だ!」 と叫んでいた。

 

 

給料が下がってから数日後のとある勤務日だ。

 

朝出勤すると、、、ビアンカの姿はなかった。

 

その辺に立っていたスタッフになぜビアンカがいないのか聞いてみると、

ビアンカはボスと揉めてクビになったという。

 

同じチームのイタリア人の女の子は泣いていた。給料も下げられて、ビアンカもいなくなって感極まっていたのだろう。「もう仕事したくない。」と言っていた。

 

私はそこにいたスタッフに「こんな状態では仕事なんてできない。今日は帰らせてもらう」

と言うと、ボスのブライアンに電話をかけ、すぐにブライアンが上司を連れてやってきた。

 

私は、ブライアンともその上司とも仲が良かったが、自分の仲間をクビにさせたのだけは許せない。

複雑な気持ちだった。

 

このままブライアン側について、黙って仕事をしておけば、他で働くより安定していい給料はもらえる。

クビになったビアンカ側について一緒にクビになるなんて絶対に得策ではない。それは分かっていた。

 

ブライアンは我々に言った。

「お前ら、今ここで帰ったらもう二度とここへは戻ってこれないぞ。」

 

私は、仲間を裏切るくらいならお金なんて無くなってもいい。そう思った。

 

私は「帰ろうか。」 とメンバーに言い、みんなで仕事を放棄して帰った。

 

農家の収穫は1日遅れると、それだけで野菜がダメになってしまうものもある。

そのあと残されたキャベツたちはどうなったか分からない。

 

私は帰りの車の中で、ビアンカに電話をした。

コール音が何度も鳴った後、ビアンカは電話に出た。

 

「なんだ?」重い口どりで話すビアンカに私は言った。

「俺たちはクビになった。ビールとワインどっちがいい?今日は良い一日になりそうだぜ。」 と。

 

みんなでビアンカの家に行き、6時間以上も語り合った。その時にビアンカに言われた言葉が今でも鼓膜に刻まれたかのように覚えている。

 

「仕事をクビになってからいろんな奴から電話なりメールなり、来たけど全部見なかった。でもお前から来た電話だけは出ないといけないと思った。」

 

噛み砕いて考えてみると、

この経験から、大きな信頼を自分が作ることが出来たということを知った。

 

ビアンカとは今では国も離れ、連絡を取り合うこともなくなったが、ここで信頼というものができたこと、そして、人を裏切らないことは自分を裏切らないということだということを学んだ。

 

自分の仲間を見捨ててまで良い思いをしようとして、いい気持ちで生きていけるわけがない。